2024年11月02日 18:00
我こそは憤怒なりと思う猫
「我こそは憤怒なりと思う猫」
ある町に、近所でも有名な「怒りっぽい猫」がいました。
その猫は、毛並みが艶やかな黒と白で、瞳はまるで燃えるように鋭く、誰かが少しでも近づくと、
「シャーッ!」と威嚇し、強烈な爪を見せて「我こそは憤怒なり!」と言わんばかりの顔をするのです。
誰が呼んでも、触ろうとしても、全ての好意を拒み続けるこの猫に、人々は恐れてあまり近づきませんでした。
しかし、どうしてそこまで怒っているのかは、誰も知りませんでした。
そんなある日、通りにやってきた新入りの小さな茶トラ猫が、無邪気にその「憤怒の猫」に近寄っていきました。
「ねえ、どうしてそんなに怒っているの?」と、全く臆することなく尋ねます。
黒と白の猫は一瞬驚いたようでしたが、やはり「シャーッ!」と威嚇し、鋭い目つきで茶トラをにらみつけました。
それでも茶トラは怯まず、「怖くないよ。君、ずっと一人で怒ってるみたいで、なんだか寂しそうだなあ」と、真っすぐに言いました。
それを聞いて、黒と白の猫はハッとしました。
実は、かつてこの猫にも大切な家族がいたのです。けれどある日、理由もわからぬままに一人残され、
それからずっと誰にも心を開かず、怒りで自分を守ることで寂しさを隠していたのでした。
しばらくの沈黙の後、黒と白の猫は、少しだけ肩の力を抜きました。
そして、茶トラに少しばかりの信頼を見せるように、そっと鼻を近づけます。
「怒っているわけじゃないんだ。ただ…、一人でいるのが怖くて、悲しいんだ。」
茶トラはやさしくうなずきました。
「じゃあ、これからは僕がそばにいてあげるよ。」
それ以来、黒と白の猫は少しずつ怒りを手放し、友達と過ごす穏やかな日々を取り戻していきました。
ただ、今でも時々、小さな怒りの顔をすることがありましたが、それはもう昔の「憤怒」とは少し違って、どこか照れくさいような顔だったのです。
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